会社に対して安全配慮義務違反を問えるケースとは?損害賠償請求はできるのか【労災に強い弁護士が解説】

1 安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、昔からの多くの労働災害による損害賠償請求訴訟の裁判例が積み重ねられていく過程で作られてきたものです。

そして、昭和50年2月25日に最高裁判所が、「国は、公務員(自衛隊員)に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解すべきである」と判断し、「安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきもの」と判示しました。

安全配慮義務の法的根拠として、この最高裁判例では、
「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」と判示しています。

この「ある法律関係」というのが、通常は「雇用関係」になり、会社は、労働者に対して、作業を遂行するに当たり、労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮しなければならない義務(=安全配慮義務)を負うことになるのです。

そのため、雇用関係の付随義務として、安全配慮義務が認められることになります。

また、平成19年に制定された「労働契約法」の第5条には、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と安全配慮義務についての記載があります。

2 派遣労働者の場合

安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間」において発生する義務です。
直接雇用の場合は、会社と労働者との間に雇用契約という「法律関係」があります。しかし、派遣の場合、派遣元の会社と派遣労働者との間には雇用契約がありますが、派遣先の会社と派遣労働者との間には直接的な法律関係はありません。

しかし、派遣先の会社は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(いわゆる「労働者派遣法」)の第45条により、派遣先の会社が派遣労働者に対して労働安全衛生法の適用があると定められています。
また、直接の雇用関係はないものの、派遣労働者は、派遣先の会社の指示に従って作業をするので、派遣先の会社と派遣労働者との間には「特別な社会的接触の関係」があるといえ、その点からも、派遣先の会社は、派遣従業員に対して安全配慮義務を負っていると言えます。

なお、派遣元の会社も派遣労働者に対して安全配慮義務を負っていますが、派遣労働者に直接指揮命令をするのは派遣先の会社ですので、派遣労働者の安全管理は第一次的には派遣先の会社が負っています。
そのため、具体的事例によっては、派遣先の会社に対して安全配慮義務違反が認められても、派遣元の会社に対しては安全配慮義務違反が認められないということもあります。

3 請負契約の場合

建築現場や自動車工場で下請業者の従業員が、作業中に怪我をした場合、元請業者に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求できるのかという問題があります。
この場合、下請業者の従業員と下請会社との間には、雇用関係があるので、下請会社は、従業員に対して安全配慮義務違反を負っています。

ところが、下請会社の従業員と元請会社との間には、直接の法律関係はありませんし、派遣と違って、労働安全衛生法の適用があるという特別法もありません。

しかし、平成3年4月11日に最高裁判所が、
「下請企業の労働者が、いわゆる社外工として、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったという事実関係の下においては、元請企業は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負う」と判断しました(三菱重工事件)。

つまり、下請業者の従業員であっても、事実上、元請業者の指揮命令ものと作業をしていた場合は、元請業者は、下請業者の従業員に対しても安全配慮義務を負うことになるのです。

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